2012年3月14日水曜日

「ぼくの名前はナルド」 (7)


「こんな悲しいことってあるのだろうか。ぼくの思いを、誰もわかってくれなかった。やっぱりぼくは、一人ぼっちなんだ。淋しいなあ。悲しいなあ」ぼくは、じっとしたまま泣き続けた。その時、野良犬のボスの声が、聞こえてきた。「人間に、裏切られたとわかった時、決して負けるんじゃないぞ。たくましく生きるんだぞ。俺たちがいることを忘れるなよ」ぼくは、立ち上がった。

「野良犬のボスのような、強い強い犬になろう。頑張ろう」そしてゆっくり歩き出した。足のケガのことも忘れていた。歩き始めると、やはり足が痛い。足をかばうようにして歩いた。空を見上げた。美しい星空だった。たくさんの星が、キラキラ光っていた。小さなお月さんが、ボーッと見えていた。歩きながら、辺りをキョロキョロ見回した。新しい家が立ち並び、団地のようだった。ノロノロ歩いた。「いつかまた、野良犬たちに会える日がくるかもしれない。その時、自慢話ができるように頑張ろう。会えたらいいのにな。きっと会えるよ」ぼくは、自分を励ました。しばらく行くと、大きな公園に出た。「何か食べる物は、ないかな」何日間も水だけで、飢えをしのいできたが、その時、食欲を強く感じた。「人間は、ぜいたくで、まだまだ食べられる物でも捨てる」と、ボスが言っていたのを、思い出した。公園に設置されているゴミ箱を、あさった。あったあった、パンのかけらが、いくつもあった。もっともっとあさった。出てきた出てきた、お弁当の残りが出てきた。「おにぎりもある。お肉も、魚も、ウインナーもある」こんなことは、今までしたことがなかった。「ボスの言ってたことは、本当だ。食べる物なんて、いくらでも自分でみつけられる」久しぶりにお腹がいっぱいになり、眠くなってきた。しげみの中へ入っていった。ちょうどいい場所を見つけた。「ここでゆっくり寝よう」疲れきっていたぼくは、すぐ眠ってしまった。赤ちゃんの時の夢を見た。お母さんのおっぱいを口にふくみ、まどろんでいた。お母さんの心臓の鼓動が、ぼくの体に心地よく響いている。隣では、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、気持ちよさそうに眠っている。お母さんの体温を、全身で感じていた。ポカポカポカ。ずいぶん眠ったようだ。まぶしくなって目をあけた。お日さまが、高く昇っていた。ぼくは、幸せな気持ちになっていた。とてもつらく悲しかった、たくさんのできごとが、もうずいぶん前のことのような気がしていた。



つづく

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