2012年3月12日月曜日

「ぼくの名前はナルド」 (5)

三つ目の町を、通り抜けた。いよいよぼくの住んでいる町だ。夜が明けた。川の水を飲み、空腹をしのぎ、橋の下で少し休んだ。そしてまた、どんどん、どんどん歩いた。走った。家は、どっちの方角だろう。ぼくは、一生けんめい考えた。一生けんめいにおいをかいだ。一生けんめい勘を働かせた。何となくわかった。たぶんこっちの方角だ。走った。走った。ポツリポツリと雨が降ってきた。体が少しずつ冷たくなってきた。お店の軒先へ入って休んだ。お店から、肉を焼いているいいにおいが、ただよってきた。空腹のぼくは、あまりのいいにおいに、気を失いそうになった。お店の中から出てきたおばさんが、「シッシッ、あっちへお行き」と、手を振った。ぼくは、また歩き出した。雨が、だんだんやんできた。また夜になった。四つ目の町を、ウロウロ歩いた。体は雨にぬれて冷たく、ぼくは、寒気でブルブル震えていた。空腹と疲労でフラフラしていた。その時、キュキュキューンと、車がすごい勢いで、飛び出してきた。ぼくは、何が起こったのか、すぐには、わからなかった。気がついた時、ぼくは溝にとばされていた。「どうしたんだ?車とぶつかったのか?どうしたんだろう。足が痛い。痛い痛い痛い」足から血が出ていることに、気がついた。そうっと血をなめた。生ぬるかった。足がズキズキ痛む。「立てるかな」おそるおそる立ち上がった。足だけケガをしたようだ。「歩けるかな」そうっと歩いてみた。ケガをした足が痛い。足をひきずって歩いた。ゆっくり歩いた。「あー危なかった。もう少しでひかれるところだった。足のケガだけですんだなんて、不幸中の幸だ」ぼくは、足をひきずりながら、ノロノロ歩いた。お腹がすいているのも、忘れていた。体は雨にぬれ、よごれ、とても汚くなっていた。「もう少しだ、頑張れ頑張れ」どんどん歩いた。かすかに、家のにおいがした。その瞬間、ぼくは、猛スピードで走り出した。ケガをした足のことも忘れ、猛スピードで走った。「やっと帰ってきた。やっと帰れたのだ」ぼくは、嬉しくて嬉しくて、大きな声でワンワン鳴きながら走った。

                                                つづく

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