2012年5月31日木曜日

わたしの大切な人


 私の大切な人が、突然私の前から姿を消して早180日が過ぎてしまいました。あなたは今どこで何をしているのでしょうか。あなたがいなくなってあなたの偉大さが、日増しに大きく私にのしかかってきます。大きな深い愛を受けて育った私は、今日まであなたの大きな翼の下で、ぬくぬくと生きてきたような気がしてなりません。あなたは、やさしさについて、愛について、たくさんのことを私に教え、最後の別れの言葉は何も残さず、遠くへ旅立ってしまいましたね。あまりの突然の別れで、四十五にもなった娘は、未だにまだあなたの姿を必死に探し、求めています。何の予告もなく大切な人を失った時、人間は、この試練をどう乗り越えていくのでしょう。「時が解決してくれる」とは、誰もが言ってくれる言葉です。悲しみのどん底に突き落とされその中で、涙が枯れるまで泣き続け、もがき、明るい未来が閉ざされてしまったかのように錯覚しますが、そんな日々の中でも、小さな光がいつか差し込んできます。悲しみから絶望へ、そしてあきらめへと、人の心は上手に変わっていってくれるものなのですね。人間が生き物である以上、誰にも平等に訪れる死、そして別れは避けて通ることはできません。あなたが私に教えてくれた多くの大切なことを、今度は私が子供達に教えていかねばなりません。
 両親を早くに亡くし、妹や弟の親代わりとして頑張ってきたあなたは、大百姓の家に嫁ぎ、六人の子供を抱え戦中戦後を生き抜き、大きな夢を持った夫に仕え、いくつもの失敗を重ねながらもその夫を支え、老親の世話をして見送り、二人の子を幼くして失い、四十三歳になった娘をも失い、六人の子供が半分になってしまった、大きな深い悲しみも乗り越え、人から波乱万丈の人生と見られる人生を送りながらも、娘の時から半世紀にわたり華道の道を邁進し、その道でも大きな功績を残し、突然の別れを告げるその日まで、生涯現役を貫き通した偉大な人。あなたとの別れを、どんなにたくさんの人が悲しみ惜しんでくれたことでしょう。空の上から、あなたは見ていたのでしょうか。大きな試練をいくつも乗り越えて生きてきたあなたは、人間を超越し、生きた観音さまになっていたのかもしれません。私はあなたの怒った顔を、この歳になるまで一度も見たことがありません。自分を頼ってくる人々の為に、自分のことは後回しにして、一生懸命周りの人々に愛を注いでいたあなた。とてもあなたのようにはなれない私ですが、たとえその何分の一かでも、やさしさを、そして愛を、私の周りの人々にわけてあげられる人になれるよう、努力したいと思います。物心ついたときから、苦労して生きてきたあなたを想い、無意識にあなたを喜ばせ幸せにしたいと願い生きてきた私は、あなたがいなくなったこれからも、やはりあなたを喜ばせ幸せにしたいと願い生きていきます。私の心に永遠に生き続けるあなた。はるか遠くの空から見ていて下さい。そしてあの優しい微笑みを見せて下さいね。

                             平成6年 記

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