私は父さんっ子だった
夜遅くまで仕事をしている母に代わって
私を寝かしつけるのは父だった
タバコの匂いがプンとする父
布団に入ると父の歌が始まる
「ここはお国を何百里 離れて遠き満州の
赤い夕日に照らされて 友は野末の石の下」
けっして上手といえない父の歌
父の歌う軍歌が子守歌だった
二番が終わる頃には私は眠っていた
毎晩私は父の歌を子守歌にして眠った
いつも同じ歌が子守歌だった
いつのまにか私は歌を覚えた
父と一緒に歌い出す
「ここはお国を何百里 離れて遠き満州の
赤い夕日に照らされて 友は野末の石の下」
そして二番が終わる頃には私は眠っていた
父は若き日々を満州で過ごした
青年将校だった
多くの兵隊を率いて厳しい寒さの満州で数年過ごした
戦争の渦に巻き込まれ翻弄された年月
戦争が終わり世の中は一変した
家族を抱え生きることに必死だった
食べることに必死だった
そして末っ子の私を寝かしつけるのに
毎晩歌った軍歌
父は歌いながら満州の日々を思い出していたのかもしれない
私の記憶に残る歳まで父の子守歌は続いた
何だか甘酸っぱい父との思い出
多くの兄弟の中で私だけが知っている父の子守歌
遥か遠くへ行ってしまった父との思い出
時々ふっと蘇る父の子守歌
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