医師をされている知人から頂いた本を夢中で読んでいます。佐伯晋著「白い海へ」です。知人の後輩で私達と同世代の方です。同郷でもあります。長年外科医として現場に立ち続けてこられました。医師であり作家であるという二足のわらじをはかれている方には、時々お目にかかりますが、その大変さには脱帽です。人間の永遠のテーマである「生」と「死」が、小説に登場する主人公によって語られます。どんなに科学技術が進歩しても、人間はこの二つのテーマから逃れることはできません。不滅のテーマに著者は挑んでいます。戦争という十字架も織り込まれています。
この本は短編集です。長編ものは苦手な私ですが、短編は読みやすく作品の一つ一つのテーマがよくわかります。その中の一つにフランス南西部を舞台とした作品があります。読んでいると作者がフランス人だと思ってしまうほどです。情景がありありと描かれています。我に返って日本人が書いた作品だったと気づきます。不思議に思っていたのですが、娘さんがフランス在住と聞いて納得しました。娘がフランスで十五年も暮らしている私達にとって、親近感を感じました。作品の中には、医師として長年医学に携わってこられたことが、ちりばめられています。専門用語も多くあります。
本の終わりには小説でなく随筆が載っています。主治医と患者という関係から始まった詩人との出会いです。この人も同郷です。四年間のおつきあいがあり、亡くなった患者のために主治医が追悼文を書くという、医師として初めての体験をされています。この随筆には多くの詩が登場します。読んでいると詩の素晴らしさが伝わってきます。詩の奥深さに引き付けられます。
本一冊の中には、私のふるさとに関したことがらが多く出てきます。ふるさととはいえ今まで知らなかったことをたくさん教えてくれます。自分のふるさと、なじみある土地、知っている名前が出てくると、今までとは違い本と自分が一体化するような気がします。
医師としての仕事は退職され、これからの人生をペン一本にかけていかれるとのことです。ものを書くということの喜びがあふれています。作者の思いが読者に伝わってきます。息子さんを亡くされたつらく悲しい経験が、作品をより深く幅広いものにしているように感じています。
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