2015年12月17日木曜日

「接吻」

幼い日の記憶が突然よみがえる
私は十歳 姉は高校生
姉の文庫本をパラパラめくる
「接吻」という字が目にとまる

母に尋ねた
「何て読むの」
真面目過ぎる母は驚いた
背中を向けて言った
「せっぷんよ」

私は尋ねた
「どうするの」
姉は笑いころげた

私は言った
「ねえしてして」
姉は笑い続ける

母は背中を向けたまま何か言った
「あとでね」と言ったのだろうか
記憶はおぼろげ
はるか遠く霧の彼方へ

「接吻」
言葉の響きが美しい
「接吻」
日本的なイメージが漂う

欧米社会では洪水のように溢れるkiss
赤ちゃんの時から慣れ親しむkiss
日本人は慣れていないkiss

「接吻」には心がこもる
愛情が静かに滲み出る

遠い遠い日の記憶
初めて出会った言葉
「接吻」

遠くに旅立った母と姉
二人の思い出とともによみが

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