2015年5月28日木曜日

老いのあれこれ(1)

 先日知り合いの女性が突然亡くなられました。八十三歳でした。母が長年いけ花の教室を開いていたのですが、たくさんいる生徒さんの中で時々教授代理をして下さる方でした。七年前に御主人が旅立たれたあと、一人暮らしをされていました。去年の夏に、一人息子さんが敷地内に家を建て、家族三人で引っ越してこられたばかりです。お孫さんはまだ五歳です。外から見れば幸せいっぱいのシニアの暮らしです。「経済的基盤がしっかりしており、息子家族がそばにいてくれる」絵に描いたような幸せの構図です。
 いけ花の指導は十年ほど前にやめられましたが、楽しみとして華道の仲間のサークル活動は続けておられました。体は人並みの老化による程度で、大病はされていません。やんわりした暮らしぶりが、近所でも評判でした。六十代半ばまではカブに乗って、買い物などの外出をされていました。そのあとシニアカーでの外出となりました。「足が丈夫でないからついつい歩かず乗り物を利用してしまう」と、ご自分でおっしゃっていました。今年の四月に急に胸が苦しくなり、救急車を呼び病院へ運ばれて入院となりました。入院は一ヶ月に及びましたが、手術をするということはありませんでした。連休が終わる頃に退院され、シニアカーに乗って病院へも行かれ、友人・知人らには電話で元気にお話しされていたようです。それは亡くなられる前日のことでした。そしてその夜「話があるから仕事から帰ったら来てほしい」と息子さんに電話をかけてあったので、夜遅く親子水入らずの話し合いの時間をもたれたとのことです。話の中身は「老人ホームへの入所について」です。息子のお嫁さんが「お母さんにホームへ入ってもらうしかない」と訴え、お母さんに息子さんがその旨を伝え「いいホームを探すから」と、退院時に話してあっての数日後のことです。最期にお母さんが息子さんに話されたことは何だったのでしょうか。「老人ホームへの入所について」の話し合いの結果のことは聞いていませんが、その五時間後には千の風になっておられたのです。シニアの幸せの構図に、突然ピリオドが打たれました。退院されて一週間後に旅立たれたのです。敷地内に息子さんが家を建て、家族三人で引っ越してこられてわずか八ヶ月です。

 生から死への一歩は容易なようです。故人と親しくしていた姉が、お別れをするためにお会いしたお顔は、本当に眠っておられる様子だったと話してくれました。眠ったままで世界が変わることは、人間にとって素晴らしいことだと思います。「家族葬で送ります。香典は辞退します」と、おっしゃる息子さんの顔は、晴れ晴れした表情で笑顔もあったようです。肩の荷を降ろされたのでしょうか。一人息子さんを溺愛され、夫よりも息子第一で人生を過ごされてこられた知人女性の最期の時を知り、複雑な想いになりました。

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