私が、音楽療法の勉強を始めたのは十八年前のことです。きっかけは、母が脳血管性障害による軽い認知症を起こし、暗く沈んだ表情を見せ始めたことからでした。ピアノ教師として、音楽の道を歩んできた私ですが、そのことで何か役立つことがあればと考え、勉強をスタートさせました。
母の大好きだった歌「みかんの花咲く丘」を、私が弾き始めると、歌詞が自然に出てきて歌い出します。表情も明るくなります。それからは「荒城の月」のメロディーをさぐり弾きします。ちょっとした音楽とのふれあいが、母に喜びをもたらしてくれました。身近で音楽の持つ大きな力に気付かされ、音楽療法という分野をのぞこうと思ったのです。
音楽療法というと大それた感じですが、日本人誰もが持っている故郷への郷愁は、うさぎ追いしかの山で始まる「ふるさと」を歌い出した時に、胸にジーンと来るものがありますが、これが基本の第一歩です。歌詞とメロディーが、その人の記憶と感性に働きかけ、脳を活性化させ、心の奥に眠っているいろんな感情を呼び起こします。
音楽療法は、いろんな分野で活用されています。私の母の場合は、高齢者対象ですが、高齢者の病気や加齢による機能の低下を少しでも予防、防止し再活性化させるためのリハビリにも、効果を上げています。年齢に関わらず障害を持っている人や、自閉症、ダウン症などの成長過程にある子供たちにも、音楽療法は用いられています。また刑務所でも、精神的療法の一つとして、音楽が取り入れられています。
私は、音楽療法のカリキュラムの中で、病院へ実践に行きましたが、入院されている多くの方々、ホスピスにおられる方にとって、音楽が力を発揮するものだと確信しています。まさに音楽の持つ偉大な力です。
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