2012年4月8日日曜日

父の口癖


  父の口癖は「生活はリズムだリズムだ」でした。
母が心筋梗塞で突然亡くなり、そのあと十年、父は一人暮らしをしました。
朝起きてまず始めに、仏壇の扉を開けて母への挨拶です。そして玄関まわりの掃除をします。ほうきで掃いて、そのあと水撒きです。
掃除を済ませば朝食です。パンを食べたり、ごはんを食べたりですが、毎日欠かさずに食べるものがあります。それは、バナナとプリンです。
朝食が済めば、日向ぼっこしながらの新聞読みです。
それから前日の寝る前に、書いたメモを見ながら、活動がスタートします。
買い物するものは何か、しなければならない用事は何か、しっかりメモが書かれています。
掃除、朝食、新聞読みが終われば、おもむろに衣装替えが始まります。
靴下、シャツ、ブレザー、ズボンが、お出かけようにかわります。
おしゃれな父は、毎日身だしなみをビシッときめて、車でお出かけです。
大きな書店が二軒あるので、交互に寄っては、本を買います。本が大好きな父は、どれだけたくさんの本を買ったことでしょう。本が我が友となっていました。晩年は、その多くの本を、ダンボール箱へ詰めては、市の図書館へ運び、寄贈していました。
本屋のあとは、スーパーへ寄り、昼食、夕食の食料と、おやつを買います。
昼食のあとは、テレビをつけて、テレビの前で、買ってきた本を読みながら、少しうとうとします。甘党の父の、三時のおやつは和菓子です。
それから趣味の小箱作りをします。木箱、紙箱の外側へ和紙や千代紙を張って、おしゃれな小物入れができあがります。もともと手が器用で物作りが好きだった父は、子供達が独立したあと、能面作り、七宝焼きに熱中しました。能面は神社や菩提寺に奉納し、子供達や親しい人にプレゼントしていました。我が家にも、小面と中将が、飾られています。
七宝焼きは、大きい作品は額に入れて壁に飾り、小さい作品は、ブローチ、イヤリング、ペンダント、ネクタイピンなどになりました。
かわいい小物入れの小箱は、孫達が取り合ってもらっていました。
父の一日のしめくくりは、母にお休みの挨拶をして、仏壇の扉を閉めることでした。
母亡きあと十年「生活はリズムだリズムだ」と言いながら、一人暮らしを続けた父は、八十六歳迄、車に乗り活動的に過ごしましたが、八十八歳の誕生日を迎えたあと、あっけなく母の元へ旅立ちました。
父は「生活はリズムだリズムだ」と言いながら、自分を奮い立たせ、孤独な日々を、乗り越えていたのかもしれません。

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