私の馴染みの海は、太平洋です。
若かりし頃、鉄道、船、バスを乗り継いで、家から二時間もかけて、遠くの小学校へ、音楽教室の講師として、毎週通っていました。バスは、海岸線に沿って走り、私は、飽きもせず、毎週太平洋を眺めながら通勤していました。
太平洋に面する小さな漁村の、小さな小学校の三階にある音楽室を借りて、音楽教室を三クラス開講していました。三階にある音楽教室からは、太平洋が見えます。どこまでも続く美しい海。白い波が寄せては返す、美しくのどかな光景。いつもうっとり眺めていました。
通い始めて一年が過ぎた頃、私は、太平洋に、四季の表情があることを知りました。
春のきらきら輝く澄みきった青い海、
夏のギラギラ輝く太陽に負けるものかと、同化する元気いっぱいの海、
秋の風情を受けとめるかの穏やかな海、
冬の厳しい寒さの中、小雪が舞い散る紺碧の海、
私は、どの表情も大好きになりました。
帰りのバスを待つひととき、私は、砂浜を歩きました。
夏の終わりの、静かな砂浜を「誰もいない海」を、口ずさみながら歩きました。
春、秋は、レッスンの始まる前に、砂浜でお弁当を食べました。
太平洋の波の音を聞きながら、アメリカ大陸へと広がる海に、自分の未来を重ね、この先には、幸せだけが私を待っていてくれるような、幸福感に浸っていました。
私の太平洋は、父であり母であり恋人でした。
今でも、太平洋を無性に見たくなる時があります。
一年に一度か二度しか行けませんが、太平洋の前に立つと、癒やされ、ホッとする自分がいます。
今はもう秋 誰もいない海
知らん顔して 人がゆきすぎても
わたしは忘れない
海に約束したから
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