たまに家族が寝静まった夜遅く、針箱を出してきて繕い仕事をすることがあります。静寂の中で針と糸、布を手に持って縫い物をするのは心が落ち着きます。子どもの頃の母の姿が思い出されます。農家に嫁いだ母は、昼間は肉体労働で疲労困憊しているにも関わらず、夜は遅くまで繕い物をしていました。家族八人のいろいろな繕い物です。「かあさんが夜なべをして、手袋あんでくれた」で始まる唱歌「かあさんの歌」を思い出します。「お母さんは仕事が多くて大変だ」と子ども心に感じていました。「夜なべ」という言葉も大好きです。自分のことよりも、家族を想う母親の深く広い愛情を感じました。
いつのころからか、使い捨て時代の到来によって、繕うことが少なくなったように感じています。わざわざ繕わなくても新しいのを買えば済むのです。物に対する執着も無くなってきているように思います。恋に恋する年頃の時には、繕ってある服を着ている人にひかれました。半世紀も前の時代です。豊かな日本になって「繕う」「繕い仕事」という言葉はどんどん遠ざかって行く気がしています。
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