2015年11月25日水曜日

心に残る人

 今から三十年も前のことです。私は思いがけない人に出会いました。子供の同級生のお母さんです。私は何も知らず、お会いすれば気さくに気軽におしゃべりをしていました。
子供が小学校5年生と6年生の二年間だけ同じクラスになり、授業参観の日は、いつもお会いしていました。家も近くだったので、学校外でもお会いすることがありました。その方の穏やかな表情と爽やかな笑顔が、忘れられません。あとになって知ったのですが、その方は童話作家だったのです。児童文学の世界では有名な方で、賞もたくさんとられています。作品は、小学校の国語の教科書にも載っています。ペンネームは、安房直子さんです。夫の転勤で東京を離れた私は、そのすぐあとに彼女の訃報を知りました。五十歳でした。私より五歳年上の彼女は、御両親と夫と一人息子さんを遺して旅立たれたのです。数多くの作品を書かれましたが、どの作品にも優しさと愛情が滲み出ています。彼女が遠い存在になってから、私は彼女の作品を読むことになりました。


童話といえば子供のために書かれたお話と思ってしまいますが、安房直子さんの作品には、大人でも心に感じ入るものがあります。彼女とのおつきあいは本当に短いものでしたが、純粋な心の持ち主という、奥深い人間性が漂っていました。「心の機を織り続ける人」と評されています。もっともっとたくさんの作品を、後世の子供達に遺して頂きたかったと残念に思われて仕方ありません。




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