2017年2月15日水曜日

図書館の力

 先日図書館で思わぬ本と出会いました。新刊コーナーに並んでいた立派な本に目がとまり、手に取りました。菱岡憲司著「小津久足(ひさたり)の文事」です。



聞いたことのない名前ですが、小津と聞いただけで興味関心好奇心がわいてきます。本をパラパラと見てみました。直感は当たり、私のふるさと伊勢の国・松坂の小津一族の出の人でした。早速借りて一気に読み上げました。以前ブログに書きましたが、映画の小津安二郎監督も小津一族の出身です。小津久足は1804年(文化元年)に生まれました。江戸店を持つ豪商三井家と同じく松坂商人湯浅屋の六代目与右衛門です。号を桂窓(けいそう)といいます。十四歳で本居宣長の息子である本居春庭に入門し、生涯で七万首の歌を詠んでいます。また小津久足の名で四十六点もの紀行文を書き残しています。滝沢馬琴と交流し、書簡も残っています。一般には知られていませんが、国文学の世界では知る人ぞ知る存在だそうです。小津久足に惚れ込んだ筆者によって、2016年11月に初版が発行されました。
 小津久足はなぜこれほどまでに知られていないのだろうか、という疑問から筆者はスタートしたのだそうです。筆者はある仮説を立てました。「素晴らしい完成度を示しながらも、無名に近い小津久足は、自ら望んで無名を志向したのではないか」と。私はこの一文で、小津久足に魅かれました。売文、売名とも縁遠く、自らのよろこびのため、純粋に文事に生きるという生き方を、自身の明確な意志によってそうしたのではと筆者は書いています。小津久足の人間像が浮かんできます。小津久足は稀有な人だと思います。
 小津久足は、詠歌作法として「歌はただ自然を第一として、さっとよむがよし。心に浮かんだ思いを、そのまま自然に、できるだけ速く多く詠み、詠んだあとは推敲しない」と書いています。また第一の行動規範として「身上さへあしくせねば、いかほど気儘にても、目うへの人までしたがふものなれば、ただ身上をあしくせぬ用心を平生すべし」と書いています。近世紀行文学史の中で、江戸時代後期の代表作として、小津久足の「陸奥日記」を上げている研究者もいます。

 過去・現在・未来と続いている人間の足跡は、小さな点のつながりですが、ふるさとを通じて知らなかった人と出会うことができました。これからももっともっと興味・関心・好奇心をもって、過ごしていきたいと思っています。

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