遡ること六十年、幼い私は母に連れられて歌のおけいこに行きました。五歳年上の姉がピアノを習っていたので、その先生に歌を習うことになりました。初めての歌のレッスンは「かもめの水兵さん」でした。先生の言われる通りに大きな声でハッキリと歌いました。
「かもめの水兵さん ならんだ水兵さん
白い帽子 白いシャツ 白い服
波にチャップチャップ うかんでる
かもめの水兵さん かけあし水兵さん
白い帽子 白いシャツ 白い服
波をチャップチャップ 越えてゆく
かもめの水兵さん ずぶぬれ水兵さん
白い帽子 白いシャツ 白い服
波でチャップチャップ おせんたく
かもめの水兵さん なかよし水兵さん
白い帽子 白いシャツ 白い服
波にチャップチャップ 揺れている」
先生に「上手、上手」とほめられおだてられ、いい気分で歌いました。今おぼろげに思い出されるのは、恥ずかしがらずに堂々と元気よく「かもめの水兵さん」を歌った幼い私です。それから週一回の歌のおけいこは一年続きましたが、先生が転居されることになり、私の歌のおけいこはとりあえずそこで終わりとなりました。歌の道をずっと続けていたら、ひょっとして大物歌手になれたかもしれません。(?)
自意識が芽生えるまでの私は、天真爛漫でした。庭に縁台を出して、祖母と家族同様の隣のおばさんをお客さんにして、私は一人歌って踊りました。二人の観客は.拍手喝采してくれます。私は上機嫌で、自分が飽きるまで歌い踊り続けました。他の家族、父や母、兄や二人の姉達は何をしていたのか記憶がありませんが、観客は二人でした。そんな私は、大人になっても掃除をしながら料理をしながら炊事をしながら、鼻歌を歌うのが習慣になっていました。
子供が生まれたその日から病院で「こんにちは赤ちゃん」を歌って、子供に聞かせました。
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