2012年3月9日金曜日

「ぼくの名前はナルド」  (2)


その日は、日曜だった。おじさんが早く起きて、つなを持ってぼくの方へやってきた。「散歩に行くのかな、珍しいことだ」ぼくは、大喜びだった。が、違った。「今日は遠くへ行くんだ。さあ、車に乗るんだ」と、おじさんは言った。車は走り出した。家がどんどん遠ざかっていく。「どこへ行くのだろう」その時、小さな頃の思い出が、フッと頭にうかんだ。大好きなお母さんから離され、車に乗って遠いところへつれていかれたあの日。不安になってきた。「どうして、おばさんも子どもたちも、一緒に来ないのだろう。おじさんは、ぼくをどこへつれていくのだろう」胸がドキドキしてきた。おじさんは、何も言わない。スピードがどんどん速くなる。町をいくつか通り過ぎ、だんだん山が近づいてきた。山のそばで、車は止まった。おじさんは、ぼくを降ろし、つなをはずした。首が軽くなった。スッとした。突然ドアがしまり、車はすごい勢いで走り出した。ぼくは、びっくりしたが、すぐ車のあとについて走り出した。一生けんめい、それはそれは一生けんめい、死にものぐるいで走った。わけもわからず、一生けんめい走った。でも、車は、どんどん遠ざかっていく。ぼくは、心臓がつぶれそうになるまで、一生けんめい走った。車は、どんどん小さくなっていく。「ぼくを、どうして置いていくのー」大きな声で叫んだ。だが、車は、見えなくなってしまった。ぼくは、立ち止まった。胸が苦しくて、心臓がつぶれそうだった。ハアハア、ハアハア、荒い息が続いた。「これからどうしたらいいのか。そうだ、歩きながら考えよう。おじさんは、どうしてこんな意地悪なことをしたんだろう。ぼくをためしているのか。こんな遠くまでつれてきて、置き去りにするなんて。ひどいよ。ぼくは、何も悪いことをしていないのに、ひどいよ。ぼくが、どんなに賢いか、おじさんは、テストをしているのだろうか。そうかもしれない。そうだ、きっとそうだ」ぼくは、そう思うことにした。そうと決めたら、気持ちが落ち着いてきた。「何が何でも帰るんだ。あの家へ帰るんだ。頑張ろう。おじさんは、ぼくが、いつ帰ってくるか、きっと待っているんだ。ぼくが、どんなに賢いか、見せてやろう。ぼくが帰ったら、みんな驚くだろうな」呼吸も少し落ち着いてきた。ぼくは、少し走ったり、歩いたり、道ばたのにおいをかぎながら、家へと向かった。

                    つづく

0 件のコメント:

コメントを投稿