2012年3月30日金曜日

私の好きなことば「忘却とは忘れ去ることなり」


  忘却の対極にあるのは記憶です。歴史の年号、化学の元素記号、数学の方程式など、記憶すべきことは無限大です。人は、それぞれ得手不得手がありますが、なんと言っても試験をうまくくぐり抜けるには、記憶力がものをいいます。「私の特技は忘却です」と、得意気に言えば、それはイコール試験には「カーン、残念でした」ということになります。記憶することは覚えること、暗記すること、丸暗記すること。「つべこべ言わず、何がなんでも丸暗記しなさい」試験に臨む受験生へのアドバイスです。人間は、本当に優秀です。そのアドバイスに忠実に従い努力できた人は、見事「サクラサク」という結果が出ます。
 私は、記憶することは、とても苦手です。暗記、丸暗記、そして楽譜をすべて頭の中へ入れる暗譜、人のなせる技とは思えません。私の場合、ピアノに没頭し、日々努力を重ね、暗譜もできた、ということで試験に臨みますが、人間は生き物、その時に何が起こるかわかりません。体調、精神的状況、原因が一つではなく複合的な原因で、アクシデントが起こります。いざその時に、頭の中が真っ白になるのです。その恐怖は、口で言い表せないほど大きいものです。しかし努力の成果が出ます。手が勝手に動くのです。終わった途端、今、自分はどういうふうに弾いたのかということさえ、記憶にありません。中身は別として、弾き終わったというだけです。数々の苦い経験が思い出されます。ここには、しっかり天分の差が出ているのでしょう。
 記憶することは苦手でも、考えることは大好きな私です。丸暗記は苦手でも、不思議なことに、心はしっかり記憶していきます。そしてそれは、楽しかったこと嬉しかったことよりも、悲しみ苦しみつらさの方が、しっかり記憶されます。
 でもあえて私は「特技は忘却です」と、言いたいのです。
 悲しいこと、苦しいこと、つらいことに、押し潰されないように、
 「忘却とは忘れ去ることなり」と口に出して、
そのあとに、
 「試験はカーン」と言って、ガハハと笑いたいと思います。

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