ある町に淋しい顔をした、若者がいました。ガールフレンドが、一人もいない若者は、いつも淋しい顔をしていました。「僕の恋人は、どこにいるのだろう」いつもそんなことを考えながら、青い空を見上げていました。
ある日、若者は、友達とドライブに出かけました。途中の村に、お母さんのお父さん、つまりおじいさんの生まれた家があることを、思い出しました。その家へ寄ることにしました。若者を出迎えてくれたのは、かわいい娘さんでした。若者はその時から娘さんのことを、いつも思うようになりました。思いきって手紙を書きました。
「僕の住んでいる町へ、遊びに来てください。小さな愛車で案内します。ぜひ遊びに来てください」
娘さんは手紙を読んで、町へ遊びに行くことにしました。若者と娘さんは、町へ、村へ、海へ、山へ、あちこちへ出かけました。そして二人は結婚しました。
二人は、いつも仲良く楽しく過ごしていました。そしてぼくの命が生まれたのです。ママのお腹にいるぼくに、二人はいつも話しかけます。
「元気で育ってね。大切な大切な私達の宝物」
ママの声もパパの声も、しっかり聞こえます。ピアノの音が聞こえます。ママの弾くピアノに合わせて、パパが歌っています。ギターの音が聞こえます。パパの弾くギターに合わせて、ママが歌っています。二人で仲良く、ピアノとギターで合奏しています。「ぼくも早く仲間になりたいなあ」パパとママにはわからないけど、ぼくは言ってます。ママはぼくのために、栄養のあるものをたくさん食べます。ぼくは、どんどん大きくなりました。ぼくのお部屋が、なんだかきゅうくつになりました。ぼくは、手や足を伸ばして体操します。パパとママの話し声が聞こえます。
「動いてる、動いてる。こんなに元気に動いてる」
「パパとママに早く会いたいなあ」パパとママにはわからないけど、ぼくは言ってます。ぼくのお部屋が、ますますきゅうくつになりました。ぼくは、手と足で、ドンドン、ドンドンと、ドアをノックします。十ヶ月が過ぎて、パパとママに会える日がやって来ました。
「バンザーイ」ぼくは、パパとママに会える喜びで、つるーんと勢いよく飛び出しました。
パパは、大きな手でぼくを抱っこします。黒いメガネをかけたパパが、嬉しそうにニコニコしています。
「こんにちは赤ちゃん、初めまして、私がママよ」と、ママは歌でごあいさつです。
十ヶ月の間、ずっと聞いてきたパパとママの声、やっと会えました。
ぼくのことを、大切に大切に十ヶ月育ててくれたパパとママ。
「今日から三人で仲良く手をつないでいこうね」
パパとママは、ぼくの顔を見ながら言っています。
「よろしくー」ぼくはニコッと笑いました。
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