五十年以上お付き合いしてきた人が、先日旅立たれました。二ヶ月半の入院で、人生に幕を降ろしました。別れの喪失感の真っ只中にいます。その方は30年ほど前、二人の娘を残し妻は亡くなっています。長女は名古屋に、次女はフランス人と結婚してフランス在住です。その後二十年前に再婚し、親子関係はうまくいっているとは言えず、ぎくしゃくしたものでした。実家は代々医者をしていて、田舎の名士でした。広い敷地に大きな家、医院関連の建物、墓、山も畑も茶畑もあります。そのすべてを相続しましたが、熱心な相続人ではありませんでした。就職したときから実家を離れて、町で暮らしていました。立派な家は、徐々に人が旅立ち、無人となりました。その後は時々のぞきに行くだけで、茶畑も親戚の人に任しておくという状況となりました。ここ数年前から、医院だった場所を無料で人に貸していました。アートギャラリーに使われていました。
彼が亡くなり、妻と二人の娘は公正証書を元に、諸々の手続きに奔走しています。実家については、二人の娘が相続人となっていましたが、娘たちはこれを放棄しました。亡くなる寸前に、娘たちは放棄する旨を父に伝えたので、急遽他人にただでもらってもらうこととなりました。前述のアートギャラリー借り主です。蔵には先祖代々のいろんなものがあり、亡き前妻の嫁入り道具も中身が入ったままでしまわれていました。再婚する時に実家に運ばれ、二人の娘たちのためと、そのまましまわれていたのです。実家が他人の手に移り、消え行く運命となりました。
七十八歳で旅立った彼は、立派な仏壇の性根抜きや墓じまいの段取りを最近済ませていたそうです。二人の娘たちに相談することもなく、一人で進めたようです。元気な時にけんかしながらでもこれから先のことについて、娘たちと話し合いができなかったのかと残念に思われてしかたありません。
田舎の御大家も都会の老舗も、時代と共に消え行く運命になりつつあります。子供たちが実家を離れ、大きな家は無人化し、朽ち果てる運命となってきたのでしょうか。代々続いてきた家を守り今日まで存続させてきた先人たちの努力も、終わりの時を迎えるのです。私の周りでも、よく聞く話となりました。
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