2020年6月26日金曜日

いくつかの夢(5)


 東京から名古屋へ転勤となり、戸建て住宅を手に入れ、私たち家族の夢はどんどん実現していきました。まだ二年しか経っていないというのに、また東京へ戻るとは、私たち家族にとって大きな試練です。悩み、よく考えた結果、ポアロの単身赴任という選択をしました。それから週末家族の暮らしが始まりました。平日は、ポアロは東京で仕事に専念し、週末は家族とともに寛ぎます。子どもたちは、学校生活で忙しい毎日です。私は、朝早くから愛犬二匹の世話と、子どもたちのお弁当作りにフル回転です。午後はピアノ教師として、夕方まで没頭します。その後は、また愛犬二匹と散歩に走りまわり、夕食の準備です。夜はほっと一息です。ポアロからは毎日電話が入ります。大切なお互いの報告連絡通信網です。今のようにメールはできません。パソコンもまだ一般には普及されていません。貴重な電話です。家族と離れて仕事に頑張っているポアロに、余計な心配をかけないように配慮します。普段は母親であり父親でもある、一人親家族のようです。週末家族はそれなりの大変さもあります。折角の家族水入らずの大切な週末です。ポアロは留守の間の、庭の手入れや諸々の修繕をしなければなりません。夫婦喧嘩をしている暇もないほどです。妻としては、夫が機嫌よく家族と過ごす週末を作る必要があります。私の性格の忍耐強い部分が、一段と成熟に向かいました。不器用は変わりませんが、忍耐強く、寛容で、我ながら感心するほどです。古来からの日本の妻のイメージです。時代が変われば、良妻像も変わりますが、その頃の私は古い考えの妻でした。週末家族にも慣れて、子どもたちはすくすくと成長していきました。

 一年二年三年が瞬く間に過ぎていきました。子どもたちの受験なども経験し、肝っ玉母さんになりつつの私でした。ポアロも要職につき、次の転勤もいつになるのか危うくなってきました。そうこうしている間に八年が経ち、転勤となりました。名古屋を飛ばして大阪への移動です。子どもたちは、大学へ進んでいます。単身赴任の継続です。いつまで続くかの単身赴任です。愛犬一匹が旅立ち、週末家族も寂しくなってきました。

 そんな折、父から嬉しい申し出がありました。「こちらへ家を建てるなら土地を使っていいよ」とのことです。将来を考えての申し出です。すでに姉が建てているので、その隣に決めました。初めて手に入れた念願のマイホーム、戸建て住宅は、ちょうど十年が過ぎていました。夢のマイホームを、手放す気は毛頭ありません。父の申し出は、セカンドハウスです。私たちは、またまた次なる夢の実現に向けて歩き始めました。

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