2017年11月20日月曜日

読書の楽しみ「トットひとり」(2)

 黒柳徹子著「トットひとり」を読んでいて、笑いころげるほど面白いところがありました。徹子さんは昭和8年(1933)東京生まれです。小学校の頃は戦時中で青森へ疎開し、女学校の頃は戦後の大変な時代で、修学旅行の経験はありません。クリスチャンの家庭に生まれ、お寺へ行ったことがないそうです。京都へ行ったことのない彼女に、夢のような仕事の依頼が来ました。ファッションショーの司会です。生まれて初めての京都に大興奮した彼女は、冬の早朝、まだ暗い中を清水寺へ出かけました。観光客はまだいません。お寺へ行ったことがない彼女は、勝手がわからないまま靴を脱いで本堂へ入りました。立派な祭壇が見えて、近づくとありがたそうな仏像があったので拝もうと思いました。仏像の前にあった大きな立派な座布団に座り、心をこめて熱心にお祈りをしました。目の前に立派な鉦や木魚があったので叩きました。ありがたそうな音が出たので、あれこれ叩いてお祈りを続けました。その時です。ふいに後ろから肩を叩かれ「そこをどいて下さいませんか?」と言われたのです。派手な色の袈裟を着た年配のお坊さんです。その後ろには大勢のお坊さんがいます。彼女は「いいですよ、交代しましょう」と答えて、譲りました。そのあと参詣の人達は賽銭箱の所で鈴を鳴らしたりお祈りをしていることに気づきます。以上が徹子さんの京都初体験の顛末です。この部分は何度読んでも笑ってしまいます。子供の頃のトットちゃんがよみがえります。この時徹子さんは二十代でした。
 徹子さんは三十八歳頃しばらく仕事を休んでニューヨークに留学します。演劇を勉強するための留学です。そこでもたくさんの人と出会い、貴重な体験を積んでいきます。
 現在テレビで放送されている「トットちゃん」は、どこか懐かしく自分の子供時代を思い出します。なぜかホッとするのです。科学が進歩し、スピード、機能、便利さが重視され、世の中が慌ただしくなり、人の心もギスギスしたものに偏ってきているように感じます。「トットちゃん」の時代は、人情があつかったように思います。徹子さんは、人を疑わないと言っておられます。周りの人からは「あなたは騙されやすい」と言われるそうです。私も騙すより騙される方がよいといつも思っています。正直、素直、天真爛漫で明るく元気な「トットちゃん」は大好きです。
 この本に登場したたくさんの方が旅立たれています。どんなに悲しく寂しいことでしょう。「先輩や友人たち、好きだった人たち、理解してくれた人たちがどんどんいなくなり、寂寥感を味わうことが歳をとるということかもしれない」と徹子さんは書いておられます。最後に、徹子さんが若い時に観た映画「草原の輝き」(1961年アメリカ)のラストシーンに出てくるワーズワースの詩が登場します。徹子さんのお気に入りの詩です。

「草原の輝き」 ワーズワース

  草原の輝き
  花の栄光
  再びそれは還らずとも
  なげくなかれ
  その奥に秘められたる力を
  見出すべし

*ワーズワース(ウイリアム・ワーズワース イギリスのロマン派詩人) 
(1770~1850)


 トットちゃんは偉大な人になりました。
ファンの一人としてずっとずっと声援を送りたいと思います。

徹子さんお元気で!

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