2016年4月5日火曜日

電話の思い出

 昭和37年(1962)の初め頃まで、私の家に電話はありませんでした。商売をされている家や医院にはあったと思いますが、私が生まれ育ったところは、農村地帯の小さな集落で、お店は一軒もなく、医院もなく、電話はどこの家にもありませんでした。もちろん公衆電話もありません。遠い親戚との急を要する非常事態の時に、どういう連絡手段をとっていたのかはあまり記憶にありません。そういうことが起こらなかったのかもしれませんが、映画やドラマで目にする電報が唯一の連絡手段だったと思います。
 そんな私の家に大変革が起こったのは、父が市会議員選挙に出馬することになった時です。あっという間に電話線がひかれ、立派な黒の電話機が設置されました。重厚で黒光りしています。遠い存在だった電話が我が家に来たということで、子供心にとても嬉しく有頂天になりました。姉と私は、町へ買い物に出かけた時には、用もないのにわざわざ公衆電話から家へ電話をかけて、母に笑われました。

 そんな時代から半世紀以上が過ぎた今、電話は各家庭に普及し、科学技術の進歩により多くの人が携帯電話を持ち、利用しています。固定電話は不要になりつつあります。物質的に豊かになるということは、100%よいことばかりとは思えません。あまりにも恵まれすぎて、ささやかな喜び、ささやかな幸せを感じる機会が失われているように感じます。ささやかな喜び、ささやかな幸せに気づくことは、とても大切なことだと思います。

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