時々、無意識に口ずさむ歌があります。子供の頃、歌を歌いながら遊んだ「花嫁人形」です。この歌を口ずさむと思い出されるシ-ンがあります。私が十九歳の時でした。五歳年上の姉が嫁ぐ日の朝、自宅で花嫁衣裳を着付けしてもらった姉は、家を出る前に父と母にあいさつをしました。映画やドラマでよく見るシ-ンです。床の間の前で、父と母、姉だけでなくその場にいたみんなが感極まって涙です。嬉しいはずの婚礼の日が、涙で始まりました。女性が花嫁となり、生まれ育った家を出て行くのです。花嫁の胸の中には、覚悟と決意がしっかり刻まれていたのでしょう。送り出す父と母の胸の内も同様だったと思います。時代は四十五年前のこと、今とは時代の考え方も違います。嬉しいはずの悲しい光景を見ていた私は、自分の結婚の時は、父と母に感謝の手紙を書き、新婚旅行に飛び立つ前に渡しました。涙を流すのは避けたかったからです。その姉も四十五歳という若さで亡くなり、今生の別れをした父と母も、今は千の風になりました。無意識に出てくるこの歌に、私は苦笑しながらも、少し物悲しいメロディ-に、胸にこみ上げてくるものを感じています。
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