2012年2月22日水曜日

母の習慣


私が子供だった頃、母と一緒にお風呂に入ると、いつも目にすることがありました。母は、湯船につかり出る前に、「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」を、十回も繰りかえすのです。私は、子供心に不思議でおかしく、ある日「毎日、毎日、どうして同じことをしているの?」と、母に尋ねました。すると母は「仏さまに今日一日どうもありがとうございましたとお礼を言うのよ。また明日もよろしくおねがいしますもね。なむあみだぶつを十回言うと、一日の疲れが体中から溢れ出て、大きなあくびが出るの」と言い、本当に気持ちよさそうにあくびをするのでした。子供の頃、私も、母のまねをして「なむあみだぶつ」を、十回繰りかえして言ってみましたが、あくびは出ませんでした。

 十二歳で母親を亡くし、十九歳で父親を亡くした私の母は、二人の妹と一人の弟の母親代わりとして、頑張って生きてきました。二十二歳で、大百姓の一人息子に嫁ぎ、したこともない野良仕事に、朝は暗いうちから、夜は暗くなるまで働き、子供を六人産み育て(その内の二人は幼くして亡くす)、がむしゃらに働き続けました。また好奇心旺盛な母は、当時の農村部の新婦人の会の会長も務め、最先端のパン焼きや料理に挑戦しました。小さな体のどこに、そんなパワーが秘められているのかと思うほど、エネルギッシュに人生を走り続けました。毎日自分の全力以上のパワーを使い果たす母は、湯船につかり「なむあみだぶつ」を十回繰りかえし、体中の疲れをはきだしていたのだと、大きくなった私は、理解できるようになりました。

 その母の習慣を受け継いだのか、形は違いますが、私は、寝る前に床の中で、感謝と願いを、大いなる宇宙、眼には見えない大いなる者に、念じています。

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