先日丸善へ出かけた時に知ったのですが、ドイツ文学者でありエッセイスト、翻訳家でもある池内紀氏が去年の夏に亡くなっておられました。突然だったようです。時々テレビにも出演されていて、穏やかな話しぶりと優しいお人柄を感じる方でした。いつの間にかファンになっていました。丸善には追悼コーナーが設けられて、たくさんの著書が並んでいました。ゲーテやカフカに関しても書かれていました。早速図書館で借りてきたのは「亡き人へのレクイエム」です。2016年の出版です。交友のあった28人が登場します。その中で私が知っている人は9人です。今まで知らなかったその人たちの人間的側面が、池内紀氏の目で書かれています。暖かい目線で愛情豊かに描かれています。
巻末エッセイには、「死について」があります。印象深いものでした。
「早くから死としたしんできた。もの心ついたころ、まず祖父が死んだ。つづいて祖母がいなくなった。小学4年のとき、父を亡くした。高校1年のとき、兄が事故死した。大学を出たとき、母が病死した。家族というと、私は即座に引き算を連想する。一つ、また一つと引いていく。死は引き算であって、昨日までいた人がもういない。結婚して家庭を持った。一人、二人と家族は増えたが、足し算など信じない。いずれ引き算になる。引き算家族で成長した私は、言葉を生活の糧とした。これは自由に足し算がきく。割り算や掛け算を組み合わせると、いとも玄妙な世界があらわれる。その豊かさにくらべると、現実世界はなんと貧しいことだろう」と書かれています。
大家族の中で育った私は、池内紀氏と似た経験をしています。本当に人生は、引き算人生だと痛感します。彼の姿は消えましたが、著書をたくさん残されました。一冊一冊に込められた彼の思いを、宝物として受け取りたいと思います。
先日図書館に行って池内紀氏の本を借りてきました。
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