2013年9月27日金曜日

夏の終わりに(2)


 まんたん(義母)と一緒に暮らし始めて早くも七ヶ月が過ぎ、デイサ-ビスやショ-トステイを利用して、何とかこの調子でこれからやっていけると思っていた矢先、この夏の終わりにまんたんの混乱が頂点に達しました。

 初期の認知症という診断を受けたまんたんにとって、場所移動というものが、非常に大きな障害になるとは思ってもいませんでした。フランスからの二人と私達夫婦とまんたんと、一台の車に乗って、お盆休暇で田舎へ夜遅く移動したのですが、このことが、まんたんに大きな混乱を招きました。

 疲れたのでしょうか、まんたんは到着するなりすぐベッドに入り眠ってしまいました。私達は起こさないよう気を使いながら、お茶を飲んで一服していたのです。そこへドアを少し開けてまんたんが顔を出しました。その形相は大変なもので、私達は驚いて何事が起こったのかと、すぐまんたんの部屋へかけつけました。すると「私をこんなところへ閉じ込めて」と泣き、わめき、怒り、物を投げるなど、大変なことになったのです。二時間半ほどのドライブで、車中では機嫌よく皆とおしゃべりしていたまんたんの突然の豹変ぶりには、本当に驚きました。心優しく孝行息子の夫でさえ、まんたんの理不尽な言葉には、堪忍袋の緒が切れ大きな声を荒げました。私達がまんたんのことを思い考え、一生けん命していることが、まんたんには通じない、わかってもらえないということを、思い知らされました。

 私達はまだ現役で、仕事をして飛び回って生活しています。これ以上まんたんを連れ回すことは限界だと思いました。以前将来のことを考え、何ヶ所かホ-ム・施設を見学していたのですが、連絡をとると二部屋空いているとのことで、私達は早速手続きを始めました。そして大騒動の十日後には、有料老人ホ-ムへ入居することができました。

 外見は八十八歳とは思えない立派な体格のまんたんは、おそらくホ-ムの中で一番元気な高齢者だと思います。入居する数日前のことです。フランスから帰国している娘が買った運動靴のヒモ通しを手伝っていたまんたんは、突然その運動靴をはきました。あまりの元気さに記念写真を撮ろうということになり、そばにあった五キロの鉄アレ-を渡すと持ち上げました。運動靴をはいて今にも走り出しそうなまんたんが、鉄アレ-を持ち上げます。こんなに元気な米寿の高齢者がいるだろうかと、皆が驚きました。

 日本が長寿社会になり、寿命が延びたことはめでたいことですが、喜んでばかりはおれないと、皆が心の中ではしんみりしたように思います。この夏の終わりに、まんたんはホ-ムへ入居し、高齢の方々と穏やかな暮らしを始めました。

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