先日、私の長年の願いを実行、実現しました。母が半世紀もの歳月を邁進した、華道の家元へ勉強しに行ってきました。
母が華道教室を開き、たくさんの生徒さんが来てくれていたので、私は子供の頃から遊び半分でおけいこをしていました。中学高校の頃はお友達も習いに来てくれたので、おつきあいでずっと続けてきました。その中には母娘二代にわたりいけ花を習いに来てくれた友人もいて、彼女は結婚するまでおけいこを続け門標も取りました。私も結婚して実家を離れるまでいけ花を続けましたが、結婚し転勤族となり、仕事、子育てに追われる日々の中で、いつしかいけ花は遠い昔のことになっていました。もしいつか勉強できる日が来たら、ぜひ家元へ行きたいと心の底に願いを持ち続けていました。故郷の地に戻った時は、片道二時間かけて、高齢になった母のいけ花教室の手伝いに、週に一度、日帰りで通ったりもしましたが、母が心筋梗塞で突然亡くなりピリオドが打たれました。その後、母の後を姉が受け継ぎ、教室をしているので、時々は私もいけ花をしていました。
そして夫婦二人きりのシニアの暮らしが始まり、六十代後半に入る今こそ願いを実行、実現しないと、その願いは儚い夢となって終わると思い決行したのです。願書を出し入学許可書を受け取り、学費を振り込んだ後に、義母の異変が起こり、私の願いは不可能になるかと悩みましたが、夫が介護休暇を取り、五日間の家元での勉強を無事終えることができました。年に四期、計二十日間受講するコ-スなので、あと三期を何とか乗り越えたいと思っています。
家元での勉強は、とても新鮮で、午前は教授陣の講義があり、午後は実技です。いけ花をしたという経験はあっても、自分でテ-マを決め、自分で花材を選ぶというのは、とても難しいことです。いけて手直しをしてもらって、アドバイスを受けます。その後はデッサンをして、クラスのみんなの手直しを見せてもらったりして、全員の実技が終わるまで授業は続きます。何をどのようにいけるかを、自分で考えたことはありませんでした。普段のおけいこの時は、与えられた花材で、先生のいけた手本を見ながらいけて、手直しとアドバイスをもらうだけです。経験のないことをするのは、大きな刺激です。
今期のクラスメイトは三十二人で、北海道から九州まで、香港からは中国の方、イギリスロンドン在住の日本人とか、国際的なのには驚きました。年齢は二十代の若者から私ぐらいの方までという、親子以上の年齢差があり、その中には男性が五人もいて驚きました。男性の年齢は、二十代後半から三十代後半までの人達でした。このクラスで一年を共に勉強するので、早速盛り上がり親睦食事会が開かれました。独身の女性も多くて、一年後にはカップル誕生という、婚活の場にもなるような感じです。日本の伝統的文化のいけ花に、興味関心を持っている若い人達がいるのは頼もしい限りです。学ぶことの楽しさ、面白さ、学ぶことによって手にする喜び、感動、大げさに言えば未知との遭遇です。それは年齢に関係ありません。何歳になっても学びたいという意欲を持ち続けたいものです。
母が若かりし頃、家元へ勉強しに、数日家を留守にして行っていたのですが、最後の日に、私は父に連れられ、母を迎えに行きました。その時、大きな台風が来て帰れなくなり、父と母と私の三人は、急遽旅館へ泊まることになったのです。十歳の私は、思いもかけないプレゼントをもらったようで、嬉しくてはしゃいで、旅先で川の字になって寝たことを懐かしく思い出します。
母が、三十代で亡くなった母の母に、子供時代からいけ花の手ほどきを受け、いけ花と共に生きた母の人生を辿り、かつて母がそうだったように、家元でいけ花を学ぶことのできる幸せを感謝しています。