2014年8月5日火曜日

故郷の風景(5)大木

 私の実家には樹齢およそ二百年のくすのきがあります。大きな大きなくすのきです。家の守り神と伝えられてきました。十五年前に私達は実家のそばへ小さな家を建てました。部屋からも庭からも大きなくすのきを見ることができます。私達の家も守ってもらっています。


 人間の命よりもはるかに長い歳月を生きている大木には頭が上がりません。大木には精霊が宿っているといいますが、私には本当のことだと思われます。人が生まれ人が去り、人の命の移り変わりをずっと見続けてきたこのくすのきは、すべてを知り尽くしすべてを見通しているのだと思います。上辺をどんなに飾っても、奥深い心の中までも見抜いていると思います。人間の醜い心にほとほと手を焼き、ハラハラし、あ-あ、これが人間なのだと、呆れ返っているかもしれません。



 大きなくすのきには、いろんな鳥がたくさん集まってきます。カラス、ヒヨドリ、ムクドリ、ヤマバト、スズメなど、とてもにぎやかです。今は朝早くからセミの大合唱が始まります。時々玉虫の姿も見かけます。玉虫の何ともいえない美しさは見事です。玉虫色に輝く玉虫には魅了されます。大きなくすのきは、自然界に生きるすべての者達の傘になっているように見えます。私も時々その傘に入れてもらって、ひと休みさせてもらいます。大きなくすのきを見上げる私は、遠くに去った人達の魂が、くすのきに抱かれて心地よい眠りについている姿を想像してしまいます。今を生きる私は、大きなくすのきから元気と勇気をもらっています。

0 件のコメント:

コメントを投稿