2013年5月30日木曜日

一大事(2)


 引っ越しの前日の夕方にまんたん(義母)と私で、御近所へのあいさつ回りに行こうと前々から決め、お礼の品も用意してありました。ところが前日の夕方まんたんは「しんどいから横になる」と言い寝てしまい、起きるのを待っていたのですが一向に起きる気配がなく、時間が遅くなってきたのでやむを得ず起こしました。「明日は朝八時にトラックが来て、荷物が出たら後片付けや掃除をしないといけないし、あいさつ回りは今日済ませておいた方がいいから」と説明しました。まんたんは「しんどいから行けない」と言います。「仕方ないから私一人であいさつ回りに行ってきます」と言いながら、私は用意したたくさんのお礼の品を玄関へ運びました。すると「けったいなことして」とのまんたんの言葉です。私は睡眠を削り時間と闘いながら必死の思いで引っ越しのために動いています。堪忍袋の緒が切れました。「けったいなことしてとはどういうこと?」声を荒げました。「こんなに一生けんめいしているのにわかってもらえないの?損得でしているんじゃないのよ。一生けんめい助けているのよ」耳の遠いまんたんに聞こえるように大きな声で言いました。私の言うことがわかったのか、まんたんはそのあと神妙になりました。

 初期の認知症と診断されて以来、まんたんと二十四時間べったりの生活です。記憶に関しては認知症の大きな症状ととらえていますが、それ以外にそう・うつの気分の浮き沈みが激しく、パニック症候群のようなものもあります。四十年近く住み慣れた場所を離れること、近所の人達にあいさつをして回ることなど、まんたんにとって気の重いことだったのかもしれません。後で振り返れば冷静に対処すべきだったのかもしれません。しかし疲労困憊の中、時間に追われていた私は、その場に不似合いなまんたんの言葉にカッとなり感情を抑えられなかったのです。「引っ越しって本当に大変だね。二人でこんなしんどい目して、これもいい思い出になるね」この三日間の中で出たまんたんの言葉です。自分が言った言葉さえ、言ったすぐから忘れます。きっと私がカッとなったことさえ記憶に残っていないと思います。

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